「居酒屋を開業したいけど、原価率ってどのくらいに設定すればいいんだろう」「メニューごとに原価率が違うって聞くけど、具体的にどう管理すればいいのかわからない」——こうした不安を抱えている方は多いです。飲食業界では「原価率30%が目安」とよく言われますが、実際に居酒屋を経営してみると、その数字だけを追いかけても利益が出ないケースは珍しくありません。大切なのは、メニューごとの原価率を把握したうえで、全体のバランスをどう設計するかです。この記事では、居酒屋の原価率の基本からメニュー別の目安、仕入れ・在庫管理の実務、そして利益を残すための原価コントロール術まで、開業準備中の方が「これを読めば原価の考え方が一通りわかる」という内容をまとめました。原価率の数字に振り回されず、しっかり利益が残る居酒屋を作るための実践知識をお伝えします。
居酒屋原価率の基本|「30%」が正解とは限らない理由

そもそも原価率とは何を指す数字なのか
原価率とは、売上に対して食材費(ドリンクの場合は仕入れ値)が占める割合のことです。計算式は「原価率=食材費÷売上×100」とシンプルですが、ここで言う「食材費」に何を含めるかで数字が変わります。一般的には食材の仕入れ価格のみを指しますが、調味料・油・ガス代まで含める「実質原価」で計算する店もあります。日本政策金融公庫の調査では、飲食業全体の食材費率は平均35〜38%程度とされています。まずは自分の店がどの範囲で原価を計算しているのか、定義を統一することが出発点です。定義が曖昧なまま「うちは原価30%だから大丈夫」と思い込んでいると、実際には調味料や廃棄ロスを含めると40%を超えていた、という事態が起こります。
居酒屋の原価率は業態平均で30〜40%と幅がある
居酒屋の原価率は、業態の中でもやや高めの30〜40%が平均的なレンジです。ラーメン店が28〜35%、カフェが25〜30%であるのに比べると、居酒屋は食材の種類が多く、刺身や鮮魚など原価が高い商品を扱うぶん、数字が上がりやすい構造があります。ただし、居酒屋はドリンク比率が高い業態でもあります。フードの原価率が35%でも、ドリンクが20%台前半なら、全体の原価率を28〜32%に抑えることは十分可能です。つまり「30%を超えたから危険」ではなく、フードとドリンクの売上構成比によって適正値が変わるのが居酒屋の特徴です。ここを理解せずにフードの原価だけ削ると、料理の質が下がって客離れを起こすリスクがあります。
| 業態 | 原価率の目安 |
|---|---|
| 居酒屋 | 30〜40% |
| ラーメン店 | 28〜35% |
| カフェ | 25〜30% |
| 焼肉店 | 35〜45% |
| 寿司店 | 40〜50% |
| バー・スナック | 15〜25% |
(独立開業のリアル調べ/各業界団体・日本政策金融公庫データをもとに作成)
「原価率30%以下にしろ」が危険な理由
飲食コンサルの教科書には「原価率は30%以下に」と書かれていることが多いですが、居酒屋でこれを鵜呑みにすると痛い目を見ます。原価率を30%以下に抑えようとすると、刺身の質を落としたり、ポーション(1皿あたりの量)を減らしたりする方向に走りがちです。結果として「値段の割にショボい」という口コミが広がり、客数が減って売上自体が下がります。売上が下がれば原価率は相対的に上がるので、さらに原価を削る——この悪循環に陥る居酒屋は少なくありません。大切なのは原価率の数字そのものではなく、「粗利額」がいくら残っているかです。原価率40%でも客単価が5,000円なら粗利は3,000円、原価率25%でも客単価2,500円なら粗利は1,875円。どちらが経営として健全かは明らかです。
居酒屋原価率は「メニュー単品」ではなく「全体設計」で見る
原価率の管理でもっとも重要な考え方は、メニュー全体でのバランスです。原価率60%の看板メニューがあっても、原価率10%のドリンクや原価率20%のサイドメニューで補えば、全体の原価率は適正範囲に収まります。これを「メニューミックス」と呼びます。具体的には、1組のお客さんが注文する平均的な組み合わせ(ドリンク3杯+フード4品など)をシミュレーションして、その合計の原価率が28〜33%に収まるように設計します。単品ごとに原価率を気にしすぎると、メニュー全体が無難でつまらないものになり、「この店でしか食べられない」という来店動機が消えてしまいます。
メニュー別の居酒屋原価率一覧|ドリンク・フード・デザートで差がつく
ドリンクの原価率は居酒屋の利益の柱になる
居酒屋経営においてドリンクは利益を生み出す最大の柱です。生ビールの原価率は約25〜30%、ハイボールは15〜20%、サワー類は10〜18%、ソフトドリンクに至っては5〜10%程度です。ドリンクの売上比率が全体の40%を超える居酒屋では、フードの原価率が多少高くても全体の収益を維持できます。Step1として、まず自店のドリンク売上比率を確認してください。Step2として、比率が35%未満なら、ドリンクの注文を促す仕組み(お通しと一緒にドリンクメニューを渡す、2杯目のおすすめ声掛けなど)を導入します。ただし、飲み放題プランを安く設定しすぎると、ドリンクの利益率メリットが消えます。飲み放題は1人あたり原価率40〜50%に達することもあるので、料理込みのコース価格でバランスを取ることが大切です。
フードは「高原価の看板」と「低原価の定番」を分けて設計する
フードメニューの原価率は品目によって大きく異なります。刺身盛り合わせは40〜55%、焼き鳥は30〜35%、枝豆は10〜15%、ポテトフライは15〜20%、煮込み料理は20〜28%が目安です。利益が出る居酒屋は、この差を戦略的に使い分けています。具体的には、原価率の高い刺身や海鮮を「看板メニュー」としてメニューの目立つ位置に配置し、集客装置にします。一方で、枝豆・冷奴・ポテト・漬物などの低原価メニューを「とりあえず頼む定番」として充実させ、利益を確保します。注意点として、低原価メニューばかり推すと「安い居酒屋チェーンと変わらない」という印象を与えます。看板メニューの存在が、低原価の定番メニューの「ついで注文」を引き出す構造を意識してください。
居酒屋メニューは「集客用(原価率40〜55%)」「定番(原価率15〜30%)」「高収益(原価率10〜20%)」の3層で設計するのが基本です。1組あたりの注文シミュレーションで全体原価率28〜33%に収まるようにバランスを取りましょう。
意外と利益が出るメニュー・出ないメニューの見分け方
実は、居酒屋で意外と利益率が高いのが「手間をかけた一品料理」です。たとえば自家製のポテトサラダは食材原価が1皿50〜80円程度で、450円で販売すれば原価率は12〜18%。手間賃を「価値」として価格に転嫁できるメニューは、原価率が低くてもお客さんに「高い」と感じさせません。逆に利益が出にくいのが「市場価格に左右される鮮魚」です。仕入れ価格が日によって30〜50%変動することがあり、メニュー価格を固定していると原価率が読めなくなります。対策としては、鮮魚系は「本日のおすすめ」として日替わり価格で提供するか、仕入れ量を最小限にして売り切りスタイルにする方法があります。廃棄ロスが出れば原価率はさらに上がるため、鮮魚の仕入れ量の見極めは開業後の大きな課題になります。
デザート・〆メニューは原価率以上に客単価アップに貢献する
居酒屋のデザートや〆のお茶漬け・ラーメンは、原価率20〜30%と中程度ですが、注目すべきは客単価の押し上げ効果です。デザートを1品追加するだけで客単価が300〜500円上がります。年間で考えると、1日50組×400円×300日=600万円の売上増になる計算です。Step1として、デザートは3品程度に絞って仕込みの負担を減らします。Step2として、メニュー表の最後ではなく、テーブルの卓上POPや口頭での声掛けで注文率を上げます。Step3として、原価率の低いバニラアイス(原価率10%前後)を定番にしつつ、季節のデザート1品を回転させるのが効率的です。注意点として、デザートの仕込みに手間をかけすぎると人件費が上がるため、シンプルに提供できるものを選ぶのがポイントです。
居酒屋原価率を計算・管理するための実務フロー

日次・週次・月次で追うべき原価の数字が違う
原価率の管理は、日次・週次・月次でそれぞれ見るべきポイントが異なります。日次では「仕入れ額」と「売上額」のざっくりした比率を把握します。毎日の仕入れ伝票をExcelやGoogleスプレッドシートに入力するだけで構いません。週次では「カテゴリ別の原価率」を確認します。ドリンク・フードそれぞれの売上と仕入れを集計し、想定と大きくズレていないかチェックします。月次では「棚卸し」を行い、月初在庫+当月仕入れ−月末在庫=当月使用量として正確な原価率を算出します。よくある失敗は、月次の棚卸しをやらずに仕入れ額だけで原価率を計算するケースです。在庫の増減を無視すると、実際の原価率と計算上の原価率に5〜10%のズレが出ることがあります。
- Step1: 仕入れ伝票を毎日Googleスプレッドシートに入力する(5分で終わる)
- Step2: 週末にドリンク・フードのカテゴリ別原価率を集計し、先週と比較する
- Step3: 月末に棚卸しを実施し、正確な月次原価率を算出する
POSレジを活用した原価率のリアルタイム把握
開業時にPOSレジを導入しておくと、原価率の管理が格段に楽になります。スマレジやAirレジなどのクラウド型POSでは、メニューごとに原価を登録しておけば、売上データと連動して自動的に原価率を算出してくれます。初期費用はスマレジのスタンダードプランで月額5,500円(税込)程度、Airレジは月額無料で基本機能が使えます。Step1としてPOSにメニュー登録する際、各メニューの食材原価を入力します。Step2として日次で「原価率レポート」をチェックする習慣をつけます。注意点として、POSの原価はあくまで登録時の食材費で計算されるため、仕入れ価格が変動した場合はこまめに更新が必要です。更新を怠ると、POSの画面上は原価率30%でも実際は38%だった、という乖離が起こります。
ABC分析で「利益を生むメニュー」と「足を引っ張るメニュー」を可視化する
メニュー数が増えてきたら、ABC分析で各メニューの貢献度を整理しましょう。ABC分析とは、メニューを「売上高×粗利率」の粗利貢献額で並べ、上位70%をA(稼ぎ頭)、次の20%をB(標準)、下位10%をC(改善候補)に分類する手法です。具体的な手順はこうです。Step1として月次の売上データからメニューごとの販売数×粗利額を算出します。Step2として粗利貢献額の高い順に並べ替えます。Step3としてA・B・Cのグループに分け、Cランクのメニューについて「価格改定」「原価見直し」「メニュー廃止」のいずれかを検討します。デメリットとして、この分析は販売数が少ないメニューを機械的に切り捨てるリスクがあります。たとえば注文数は少ないが常連客に愛されている一品を廃止すると、常連の来店頻度が下がることがあるので、数字だけで判断しないことが大切です。
食材ロス率を把握しないと本当の居酒屋原価率は見えない
原価率を正確に管理するうえで見落としがちなのが「食材ロス率」です。仕入れた食材のうち、廃棄される割合がロス率で、居酒屋では平均5〜8%と言われています。たとえば月の食材仕入れが150万円でロス率が8%なら、12万円分が廃棄されている計算です。年間で144万円——これは家賃1ヶ月分以上に相当する店も多いはずです。ロスの原因は大きく3つあります。①仕入れ過多(売上予測の甘さ)、②仕込み過多(当日の客数予測ミス)、③保存管理の不備(先入れ先出しの未徹底)です。対策としては、曜日別・天候別の来客数データを3ヶ月分蓄積し、仕入れ量の精度を上げていくしかありません。開業直後は予測が難しいので、まずは「少なめに仕入れて売り切る」を基本にし、品切れが出たら翌日の仕入れ量を調整する方法が現実的です。
居酒屋原価率が高くても利益が出るメニュー設計の3つの柱
柱①「集客メニュー」で来店動機をつくる
利益が出る居酒屋が必ずやっているのが、原価率度外視の「集客メニュー」の設定です。具体的には原価率50〜60%でも構わないので、「この店に来たらこれを食べたい」と思わせる1〜2品を用意します。たとえば「毎朝市場で仕入れる刺身5点盛り 980円」のように、他店より明らかにお得感がある看板メニューです。食べログやGoogleマップの口コミで「刺身のコスパが最高」と書かれれば、それ自体が広告になります。年間の広告費を考えれば、看板メニューの原価率が高いことは投資として十分に合理的です。注意点として、集客メニューは1〜2品に絞ることが重要です。多すぎると「安い店」のイメージがつき、他のメニューの値付けにも影響します。
柱②「定番メニュー」で安定した粗利を確保する
集客メニューで来店したお客さんが「とりあえず」で頼む定番メニューが、利益の安定装置になります。枝豆(原価率10〜15%)、冷奴(原価率8〜12%)、唐揚げ(原価率20〜25%)、ポテトフライ(原価率15〜20%)——こうした定番メニューは原価率が低く、仕込みもシンプルで提供スピードが速いため、忙しい時間帯のオペレーション負荷も軽減します。定番メニューを設計するときのポイントは、10品程度に絞って注文の集中度を高めることです。品数が多すぎると食材の種類が増え、ロスの原因になります。定番メニューだけで全体売上の30〜40%を占めるのが理想的な構成です。デメリットとしては、定番メニューはチェーン店でも食べられるため差別化しにくい点があります。自家製にこだわるなど、ひと手間加えて「うちの定番」にする工夫が必要です。
居酒屋のメニュー構成は「松竹梅」ではなく「看板・定番・高収益」の3層で考えるのが実務的です。看板メニューは「赤字でもいい」という覚悟で目玉をつくり、定番メニューで粗利を稼ぎ、ドリンクや高収益おつまみで利益を上積みする。この構造が理解できていれば、「原価率が高い=悪い」という思い込みから解放されます。
柱③「高収益メニュー」で利益を上積みする
3つ目の柱が、原価率10〜20%で利益を大きく上積みする「高収益メニュー」です。代表例はお通し(原価率10〜20%)、自家製の漬物や燻製(原価率10〜15%)、デザート(原価率10〜20%)です。ドリンクもこの層に含まれます。お通しについては賛否がありますが、300〜500円のお通しが1日100人分出れば、月間で90〜150万円の売上になります。原価率15%なら粗利は76〜127万円です。高収益メニューの設計で大切なのは、「お得感」を感じさせることです。原価が安い=手を抜いている、と思われたら逆効果になります。お通しなら季節の小鉢を日替わりにする、デザートなら盛り付けにこだわるなど、見た目と体験の価値を上げる工夫が必要です。注意点として、高収益メニューに頼りすぎると「コスパが悪い」という評価につながるので、全体の中での比率を意識してください。
3つの柱の売上構成比シミュレーション
では、具体的にどんな売上構成比を目指せばいいのか、モデルケースを見てみましょう。月商300万円の居酒屋の場合、集客メニュー(原価率45%)が売上の15%=45万円、定番メニュー(原価率22%)が35%=105万円、高収益メニュー(原価率12%)が10%=30万円、ドリンク(原価率20%)が40%=120万円。この構成だと全体の原価率は約23%になります。実際にはここまできれいにはいきませんが、目標として各カテゴリの売上構成比と原価率を設定し、月次で実績と比較することで改善のPDCAが回ります。デメリットとしては、このシミュレーション通りにお客さんが注文してくれるとは限りません。そのため、メニュー表のレイアウトや店員のおすすめトークで注文を「誘導」するテクニックも合わせて必要になります。
居酒屋の原価率を適正に保つ仕入れ・在庫管理の実務
仕入れ先は最低3ルートを確保しておく
居酒屋の原価率を安定させるうえで、仕入れ先の複数確保は基本中の基本です。業務用食材卸(大手ならトーホー、シーアンドシー)をメインに、地元の市場での直接仕入れ、業務用スーパー(業務スーパーやメトロ)の3ルートを持っておくのが理想です。理由は2つあります。1つは価格交渉力——1社依存だと値上げを受け入れるしかありませんが、複数ルートがあれば相見積もりが取れます。もう1つはリスク分散——コロナ禍では特定の卸が配送を停止するケースがありました。Step1として開業前に3社以上の卸業者から見積もりを取ります。Step2として主要食材10品目の価格比較表を作成します。Step3として月に1回は価格を再比較し、必要に応じて発注先を切り替えます。注意点として、安さだけで仕入れ先を選ぶと品質にバラつきが出ます。特に鮮魚は「安かろう悪かろう」が如実に出るので、信頼できる仕入れ先との関係構築が大切です。
開業前に取引先を1社しか確保せず、開業後に「急に仕入れ値が上がった」「欠品で看板メニューが出せない」というトラブルに陥るケースがあります。仕入れ先の複数確保は、原価率の安定だけでなく、営業を止めないためのリスク管理でもあります。
発注量の精度が原価率を左右する
仕入れ先を確保しても、発注量を間違えれば原価率は上がります。居酒屋では曜日・天候・イベントによって来客数が大きく変動するため、発注量の精度が経営を左右します。開業後3ヶ月は「データ蓄積期間」と割り切り、曜日別・天候別の来客数を記録してください。3ヶ月分のデータがあれば、「金曜日は平均60人、雨の月曜日は25人」といった予測が立てられるようになります。具体的な発注の目安は「予測来客数×メニュー別の出数率×1人前の使用量」です。たとえば金曜日に60人来る予測で、刺身の出数率が40%なら24人前を仕込む計算です。ここに安全係数1.1〜1.2をかけて、26〜29人前の食材を発注します。デメリットとして、開業直後はデータがないため予測が外れがちです。最初の1〜2ヶ月は廃棄ロスが増えることを織り込んで資金計画を立てておきましょう。
棚卸しは「月1回15分」でも効果がある
棚卸しと聞くと面倒なイメージがありますが、居酒屋規模なら月1回15〜30分で終わります。冷蔵庫・冷凍庫・乾物棚の在庫を数え、仕入れ単価で金額を算出するだけです。これをやるだけで「今月の実質原価率」が正確に把握できます。棚卸しをしないまま「仕入れ額÷売上」で原価率を計算すると、在庫の増減が反映されず、5〜10%の誤差が出ることは先述の通りです。Step1として、月末の営業終了後に冷蔵庫の中身を写真に撮ります。Step2として主要食材20品目の在庫数量を記録します。Step3としてGoogleスプレッドシートに入力し、「月初在庫+当月仕入れ−月末在庫=当月使用額」を算出します。全食材を網羅する必要はなく、売上の80%を占める主要20品目だけで十分です。これだけでも原価率の実態がかなり正確に見えるようになります。
食材の使い回しレシピで廃棄ロスを減らす
原価率を下げるもっとも健全な方法の1つが、食材の使い回しです。1つの食材を複数のメニューに展開すれば、仕入れる食材の種類を減らせるうえ、余った分を別のメニューに回せるので廃棄ロスが激減します。たとえば鶏肉は、もも肉を唐揚げ・焼き鳥・チキン南蛮に、手羽先を手羽先唐揚げ・手羽先煮に展開できます。大根は刺身のつま・おでん・大根サラダ・ぶり大根に使えます。Step1として、現在のメニューで使っている食材を全てリストアップします。Step2として、1つの食材で3品以上に展開できないか検討します。Step3として、日によって余りそうな食材を「本日のおすすめ」として提供する仕組みをつくります。注意点として、使い回しが露骨だと「余り物を出された」という印象を与えます。調理法や味付けを変えて、別の料理としての価値を持たせることが大切です。
居酒屋原価率だけ見ていると潰れる|本当に追うべき経営数字
FLコスト(食材費+人件費)で見ると景色が変わる
原価率だけを追いかけている居酒屋オーナーが見落としがちなのが「FLコスト」です。FはFood(食材費)、LはLabor(人件費)の略で、この2つの合計が売上の55〜65%以内に収まっているかが、飲食店経営の最重要指標です。中小企業庁のデータでは、飲食業の廃業率が3年で約50%に達しますが、その多くはFLコストの管理ができていないことが原因です。たとえば原価率を30%に抑えても、人件費率が40%ならFLコストは70%。売上から家賃・光熱費・借入返済を引くと利益はほぼゼロです。逆に原価率が35%でも人件費率を25%に抑えればFLコストは60%で、十分に利益が残ります。居酒屋は調理・接客・仕込みで人手がかかる業態なので、原価率と人件費率をセットで管理することが不可欠です。
| FLコスト60%以下の店 | FLコスト70%超の店 |
|---|---|
| ・家賃や借入返済を払っても利益が残る ・突発的な設備故障にも対応できる資金余力がある ・繁忙期に利益を蓄積して閑散期に備えられる |
・売上が少しでも下がると赤字に転落する ・設備の修繕費や税金の支払いで資金繰りが苦しくなる ・人件費を削るとサービスの質が落ち、さらに売上が下がる悪循環 |
客単価×客数×営業日数の「売上方程式」を理解する
原価率を改善しても、そもそもの売上が少なければ利益は出ません。居酒屋の売上は「客単価×客数×営業日数」で決まります。たとえば客単価3,500円×1日50人×月25日=月商437万円。ここから原価率32%の食材費140万円、人件費率28%の123万円を引くと、粗利は174万円。家賃・光熱費・その他経費を差し引いて最終利益が残るかどうかが問われます。原価率を2%下げる努力(140万円→131万円)と、客単価を200円上げる努力(437万円→462万円)では、後者のほうがインパクトが大きいケースが多いです。客単価を上げるには、ドリンクの追加注文促進、デザートメニューの充実、コースメニューの導入が有効です。注意点として、客単価を上げることに集中しすぎると「高い」という口コミにつながるリスクがあるので、価格に見合う体験価値の向上とセットで考えてください。
損益分岐点売上を知らないと「儲かっているかどうか」がわからない
意外と知られていないけれど、居酒屋経営で最初に計算すべきなのは「損益分岐点売上」です。損益分岐点売上とは、すべての経費をまかなって利益がゼロになる売上額のこと。これを下回れば赤字、上回れば黒字です。計算方法は「固定費÷(1−変動費率)」です。固定費は家賃・人件費(固定分)・リース料・保険料など毎月一定の経費、変動費率は原価率+変動人件費率(アルバイト代など)です。たとえば固定費が月120万円、変動費率が45%なら、損益分岐点売上は120万円÷0.55=約218万円です。月商218万円を超えた分だけが利益になります。Step1として、開業前に固定費をすべて洗い出します。Step2として、想定の変動費率を設定します。Step3として損益分岐点売上を算出し、「1日あたりいくら売ればいいか」を逆算します。この数字が現実的に達成可能かどうかで、出店計画の妥当性が判断できます。
資金計画の甘さで半年で廃業するパターンを避ける
居酒屋開業で最も多い失敗パターンの1つが「資金計画の甘さ」です。開業資金は内装工事・設備・保証金で500〜1,500万円かかりますが、問題は「運転資金」の見積もりが甘いケースです。開業後3〜6ヶ月は客足が安定しないため、売上が計画の50〜70%程度にとどまることは珍しくありません。この期間の家賃・人件費・仕入れ代を手持ち資金で賄えないと、半年を待たずに資金ショートします。最低でも6ヶ月分の固定費+生活費を運転資金として確保してから開業するのが鉄則です。月の固定費が100万円、生活費が30万円なら、780万円の運転資金が必要になります。日本政策金融公庫の新創業融資制度を活用すれば無担保・無保証人で最大3,000万円まで借りられるので、自己資金だけで無理をせず融資を検討してください。原価率を必死に下げても、そもそもの資金体力がなければ居酒屋は続きません。
原価率を下げたいときの居酒屋メニュー改善テクニック
メニュー数の絞り込みが原価率改善の最短ルート
居酒屋の原価率を下げる最も効果的な方法は、実はメニュー数の見直しです。メニューが多いと食材の種類が増え、少量多品種の仕入れになるため単価が上がります。さらに廃棄ロスも増えるので、原価率は構造的に高くなります。一般的に、個人経営の居酒屋で適正なフードメニュー数は30〜40品です。50品を超えている場合は、ABC分析で下位10〜15品を思い切って削りましょう。Step1として過去3ヶ月の販売データから、月に10食未満のメニューをリストアップします。Step2としてそのメニューの食材が他のメニューと共有されているか確認します。Step3として、食材が共有されていない低販売メニューから優先的にカットします。注意点として、メニューを減らすタイミングは季節の変わり目がベストです。「春の新メニュー」としてリニューアルすれば、メニュー削減がネガティブに映りません。
価格改定は「値上げ」ではなく「価値の再設計」で伝える
原価率を改善するもう1つの手段が価格改定です。2023年以降、食材価格の高騰が続いており、居酒屋業界でも値上げに踏み切る店が増えています。ただし、単純な値上げはお客さんの反発を招きます。効果的なのは、価格改定と同時にメニューの「価値」を再設計する方法です。たとえば、唐揚げを50円値上げする代わりに、鶏肉を国産銘柄鶏に変更して「〇〇鶏の特製唐揚げ」としてリニューアルします。お客さんは「高くなった」ではなく「グレードアップした」と感じます。実際には鶏肉の仕入れ値は1皿あたり20円程度しか上がらないので、差額の30円分が粗利の改善になります。デメリットとして、この手法は何度も使えません。年に1〜2回の季節メニュー入れ替えのタイミングで自然に行うのが限度です。頻繁な値上げは信頼を損ないます。
ドリンクの原価率を戦略的に活用して全体をコントロールする
居酒屋の原価率改善で即効性があるのが、ドリンク戦略の見直しです。前述の通りドリンクは原価率が低いため、ドリンクの売上比率を1%上げるだけで全体の原価率が0.1〜0.2%下がります。具体的な施策をいくつか紹介します。Step1として、ハイボールや自家製サワーなど原価率15%以下のドリンクを「おすすめ」として目立たせます。Step2として、ドリンクとフードのセットメニュー(例:唐揚げ+ハイボールセット 880円)を導入します。Step3として、2杯目以降のドリンクを割引する仕組み(例:2杯目ハイボール100円引き)でドリンクの追加注文を促します。注意点として、ビールの値引きは原価率が高いためあまり効果がありません。ハイボールやサワーなど原価率の低いドリンクに誘導するのがポイントです。飲み放題を導入する場合は、原価率の低いドリンクを中心にラインナップを組み、プレミアムビールや日本酒は別料金にする設計が利益を守ります。
- ☐ メニュー数は30〜40品に収まっているか
- ☐ 月に10食未満のメニューをリストアップしたか
- ☐ ドリンク売上比率が35%以上あるか
- ☐ 原価率15%以下のドリンクを「おすすめ」にしているか
- ☐ 食材の使い回しレシピを3パターン以上持っているか
- ☐ 月次棚卸しを実施しているか
季節メニューの活用で原価率の波を平準化する
食材の価格は季節によって大きく変動します。夏のトマトと冬のトマトでは仕入れ値が2倍以上違うこともあります。この変動を逆手に取るのが「旬の食材を使った季節メニュー」です。旬の食材は供給量が多いため価格が安く、しかも味が良いので顧客満足度も高くなります。たとえば秋は秋刀魚や松茸、冬は牡蠣や白菜、春は筍や菜の花といった旬の食材を月替わりメニューに組み込みます。Step1として、月ごとの旬の食材リストを作成します。Step2として、その食材を使った2〜3品のメニューを開発します。Step3として、季節メニューはメニュー表の一番目立つ位置に配置し、注文率を高めます。これにより原価率を下げながら「いつ来ても新しいメニューがある」という来店動機を作れます。デメリットとしては、季節メニューの開発と仕込みに手間がかかる点です。定番メニューの食材を活かしたアレンジにとどめれば、オペレーション負荷を抑えられます。
居酒屋原価率の改善に成功する店・失敗する店の決定的な違い
成功する店は「数字の習慣化」ができている
原価率の改善に成功している居酒屋オーナーに共通するのは、数字を見る「習慣」が日常業務に組み込まれていることです。毎日の売上と仕入れ額を記録する、週次でカテゴリ別原価率を確認する、月次で棚卸しをする——やっていること自体はシンプルですが、これを1年間継続できるかどうかで差がつきます。中小企業庁の調査では、日次で売上管理を行っている飲食店は全体の約40%にとどまり、月次の棚卸しを実施している店は30%未満というデータがあります。つまり、基本的な数字管理をやるだけで上位30%に入れるということです。Step1として、まず毎日の売上と仕入れ額だけを記録する習慣をつけます。Step2として、慣れてきたら週次のカテゴリ別分析を追加します。Step3として、月次棚卸しを定例化します。一度に全部やろうとせず、段階的に習慣化するのがコツです。
失敗する店は「味を削って原価を削る」悪循環に陥る
原価率改善に失敗する居酒屋に多いのが、「原価を下げる=食材のグレードを落とす」という発想です。鶏肉を安い外国産に変える、刺身の量を減らす、調味料を安いものに替える——こうした「味を削る」アプローチは短期的に原価率を下げますが、中長期的には客離れを招きます。特に個人経営の居酒屋はチェーン店と価格で勝負できないぶん、「味」と「居心地」が来店理由の大部分を占めます。味を落として原価率を改善しても、客数が減れば売上が下がり、固定費の負担率が上がって最終的には赤字に転落します。正しい原価率改善の方向は、食材の質を維持しながら「メニュー構成」「ドリンク比率」「食材ロスの削減」で全体のバランスを整えることです。この記事で紹介してきた手法は、すべて「味を削らずに利益を残す」ためのものです。
「料理の質を落として原価率を下げる」は飲食店経営で最もやってはいけない改善策です。一度落ちた評判を取り戻すには、落とすのにかかった時間の3倍以上かかると言われています。原価率を改善するなら、メニュー構成・ドリンク比率・ロス削減の3方向で攻めてください。
開業前に原価シミュレーションをやっておくべき理由
居酒屋の原価率管理は開業後に始めるものと思われがちですが、実は開業前のシミュレーションが成否を分けます。メニュー開発の段階で「1皿あたりの食材原価」「想定売価」「原価率」を全メニュー分計算し、全体の加重平均原価率を出しておきます。そのうえで「1日あたりの想定客数×想定客単価」から月商を予測し、原価率をかけて月の食材費を算出します。このシミュレーションをやらずに開業し、蓋を開けたら原価率が40%を超えていて利益が出ない——というケースは開業1年以内の廃業理由のトップクラスです。Step1としてメニュー案の全品について食材原価を算出します。Step2として各メニューの想定出数比率をかけた加重平均原価率を計算します。Step3として月商予測と合わせて、月次の食材費・FLコスト・利益予測のPLシミュレーションを作成します。このシミュレーションは日本政策金融公庫の融資審査でも提出を求められるので、開業準備の一環として必ずやっておきましょう。
外部環境の変化に対応できる「柔軟なメニュー体制」を持つ
2023年以降、食材価格の高騰が続いています。小麦粉、食用油、鶏肉、水産物——幅広い食材で10〜30%の値上がりが発生しており、居酒屋の原価率を直撃しています。この環境変化に対応できる店とできない店の差は「メニューの柔軟性」にあります。固定メニューだけの店は、食材が値上がりしても同じ価格で提供し続けるしかなく、原価率が上がる一方です。一方、日替わりメニューや季節メニューの枠を持っている店は、値上がりした食材を避けて別の食材に切り替えることができます。具体的には、メニュー全体の30%程度を「可変枠」として確保しておくのがおすすめです。たとえば全40品のうち12品を月替わり・日替わりにしておけば、食材価格の変動に応じて柔軟にメニューを組み替えられます。注意点として、可変枠が多すぎると仕込みのオペレーションが複雑になるため、キッチンスタッフのスキルに合わせて比率を調整してください。
まとめ|居酒屋原価率は「全体のバランス」で考えるのが正解
居酒屋の原価率は、単純に「30%以下にすればOK」という話ではありません。メニューごとに原価率は大きく異なり、ドリンクとフードの売上構成比によって全体の数字が決まります。大切なのは、原価率の数字そのものを追いかけることではなく、メニュー構成・ドリンク比率・食材ロス・FLコストをトータルで管理して、最終的に利益が残る仕組みをつくることです。
この記事のポイントを振り返ります。
- 居酒屋の原価率は業態平均で30〜40%。ドリンク比率が高ければ全体原価率を28〜33%に抑えられる
- メニューは「集客用(原価率45%前後)」「定番(原価率20%前後)」「高収益(原価率10〜20%)」の3層で設計する
- 原価率だけでなくFLコスト(食材費+人件費)を売上の55〜65%以内に管理するのが経営の基本
- 仕入れ先は最低3ルートを確保し、発注量の精度を上げることで食材ロスを削減する
- 月次の棚卸しを実施しないと、実際の原価率と計算上の原価率に5〜10%のズレが出る
- メニュー数の絞り込みとドリンク戦略の見直しが、味を落とさない原価率改善の王道
- 開業前にメニュー全品の原価シミュレーションとPL予測を必ず行う
まず今日できることとして、自分が開業したい居酒屋のメニュー案を10品でいいのでリストアップし、それぞれの食材原価と売価を書き出してみてください。そこから全体の加重平均原価率を計算すれば、「この構成で利益が出るのか」が具体的な数字で見えてきます。数字に強い居酒屋オーナーは、経営に強いオーナーです。原価率を「なんとなく」ではなく「仕組み」で管理できるようになれば、食材高騰の時代でもしっかり利益を残せる居酒屋をつくれるはずです。
