「飲食店を開業するのに防火管理者って本当に必要なの?」「資格を取るのは大変?」——これから飲食店の開業を考えている方なら、一度はこんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。保健所の営業許可や食品衛生責任者に比べると、防火管理者は意外と見落とされがちな手続きです。しかし、選任を怠ると消防署から是正命令が出され、最悪の場合は営業停止に追い込まれるリスクがあります。実際に、開業直前になって防火管理者の届出が間に合わず、オープン日を延期せざるを得なかったという話は珍しくありません。この記事では、飲食店の防火管理者について「そもそも何をする人なのか」から「資格の取り方」「届出の具体的な手順」「日常業務」「よくある失敗パターン」まで、開業準備に必要な情報をすべてまとめました。読み終えるころには、防火管理者に関する不安がなくなり、迷わず行動に移せるようになります。
飲食店の防火管理者とは?「知らなかった」では済まない法的義務の正体

防火管理者は消防法で定められた「火災を防ぐ責任者」
防火管理者とは、消防法第8条に基づき、建物の火災予防に関する管理業務を行う責任者のことです。飲食店は火を使う業態であるため、火災リスクが高く、消防法上は「特定防火対象物」に分類されます。総務省消防庁の統計によると、飲食店を含む「飲食サービス業」の火災件数は年間約2,500件前後で推移しており、出火原因の上位はコンロ・排気ダクト・電気配線です。つまり、飲食店は構造的に火災が起きやすい業態であり、だからこそ防火管理者の選任が法律で求められています。防火管理者を選任しなかった場合、消防法第44条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。「知らなかった」は通用しないので、開業前に必ず対応しましょう。
食品衛生責任者との違いを混同すると痛い目に遭う
飲食店開業で必要な資格として「食品衛生責任者」はよく知られていますが、防火管理者と混同している方が少なくありません。食品衛生責任者は保健所の管轄で、食品の衛生管理が目的です。一方、防火管理者は消防署の管轄で、火災予防と避難体制の整備が目的です。管轄官庁も目的も異なるため、片方を取ったからといってもう片方が免除されることはありません。開業に必要な手続きを一覧化する際、食品衛生責任者・防火管理者・営業許可の3つは最低限セットで押さえておく必要があります。なお、食品衛生責任者は1日の講習で取得できますが、防火管理者は甲種の場合2日間の講習が必要です。スケジュールに余裕を持って取り組みましょう。
オーナー自身が取るべきか、従業員に任せるべきか
結論から言うと、小規模な飲食店であればオーナー自身が防火管理者になるのがベストです。消防法上、防火管理者は「管理権原者(オーナーや経営者)から選任される」立場ですが、実質的にはオーナー自身が兼任するケースが大半です。理由は明確で、防火管理者には消防計画の作成・届出、避難訓練の実施、消防設備の点検管理といった責任が伴うため、現場の決定権を持つ人が適任だからです。従業員に任せる場合、その従業員が退職すると防火管理者の変更届を出し直す必要があり、届出漏れのリスクが生まれます。ただし、複数店舗を運営する場合は各店舗に防火管理者が必要なので、店長クラスの従業員に資格を取らせるのが現実的です。
防火管理者は「資格」ではなく「役職」に近い位置づけです。講習の修了証を取得しただけでは防火管理者にはなれず、消防署への届出を完了して初めて正式に選任されます。修了証=資格取得と勘違いして届出を忘れるケースが多いので注意してください。
あなたの飲食店に防火管理者は必要?30人ルールの意外な数え方
収容人数30人以上で防火管理者の選任が義務になる
飲食店で防火管理者の選任が必要になる基準は、収容人数が30人以上かどうかです。消防法施行令第1条の2に基づき、特定防火対象物(飲食店はこれに該当)で収容人数30人以上の場合、防火管理者を選任し、消防署に届け出る義務が発生します。逆に、収容人数が30人未満であれば防火管理者の選任は法的には不要です。ただし、30人未満でも消防計画の作成や消防設備の設置義務がなくなるわけではないため、火災予防の意識は同様に必要です。「うちは小さい店だから関係ない」と思い込むのは危険で、実際に計算してみると30人を超えていたというケースは珍しくありません。
「収容人数」は客席数ではない——従業員もカウントされる
ここが最大の落とし穴です。収容人数とは「客席数」ではなく、「従業員+客席数」の合計を指します。さらに、客席数の算定方法は「椅子の数」ではなく「床面積÷3㎡」で計算するのが原則です。たとえば、客席エリアが60㎡の飲食店なら、客席の収容人数は60÷3=20人となります。ここにキッチンスタッフ3人、ホールスタッフ2人を加えると合計25人。一見30人未満ですが、テラス席や待合スペースがあればそこも加算されます。仮にテラス席が15㎡あれば+5人で合計30人。ちょうど30人で義務が発生します。消防署によって多少の運用差がありますので、必ず管轄の消防署に事前確認を取ってください。
テナントビルに入る場合は建物全体の収容人数で判定されることも
商業ビルやショッピングモールにテナントとして入居する場合、自店舗の収容人数が30人未満でも、建物全体の収容人数が30人以上であれば防火管理者の選任が求められることがあります。これは「統括防火管理者」制度に関連するもので、ビル全体の防火管理体制の一部として各テナントにも防火管理者の配置を求めるケースです。特に居抜き物件でビルに入居する場合、ビルの管理会社から「防火管理者の届出をお願いします」と言われて初めて気づくパターンが多いです。物件の契約前に、ビル全体の防火管理体制を確認しておくことをおすすめします。
収容人数の計算を自己判断で行い、「30人未満だから不要」と結論づけてしまうのは危険です。消防署の現地調査で収容人数の見解が異なった場合、開業後に是正命令を受ける可能性があります。開業前に管轄の消防署へ図面を持参し、正式な収容人数を確認してもらいましょう。
30人未満でも防火管理者を取っておくメリット
法的には不要でも、防火管理者の資格を取っておくメリットはあります。まず、将来的に店舗を拡大したり移転したりした際に改めて講習を受ける必要がなくなります。修了証に有効期限はないため、一度取得すれば原則として生涯有効です。また、テナントビルのオーナーや管理会社に対して「防火管理者の資格を持っています」と伝えることで、物件審査で有利に働くこともあります。講習費用は甲種で8,000円程度、乙種で7,000円程度と負担は大きくありません。開業準備の一環として取得しておくのは合理的な判断です。
甲種と乙種どっちを取る?飲食店の防火管理者資格の選び方
甲種と乙種の違いは「延べ面積300㎡」が分岐点
防火管理者の資格には甲種と乙種の2種類があります。判断基準はシンプルで、建物の延べ面積が300㎡以上なら甲種、300㎡未満なら乙種で対応できます。ただし、甲種は乙種の上位資格であり、甲種を取得していれば乙種が必要な建物でも防火管理者になれます。乙種で甲種が必要な建物の防火管理者にはなれません。飲食店の場合、テナントとして入居する1フロアの面積が小さくても、建物全体の延べ面積で判定されるケースがあるため注意が必要です。迷ったら甲種を取っておけば間違いありません。
講習時間と費用の具体的な比較
甲種防火管理新規講習は2日間で約10時間、受講料は8,000円前後です。乙種防火管理講習は1日間で約5時間、受講料は7,000円前後です。いずれも日本防火防災協会が実施する講習の場合の金額で、自治体によって若干の差があります。講習内容は、甲種が「防火管理の意義と制度」「火気管理」「施設・設備の維持管理」「消防計画の作成」「自衛消防」の5科目、乙種はこのうちの基礎部分を凝縮した構成です。試験というよりは講習の最後に効果測定(確認テスト)がある形式で、真面目に受講すればまず落ちることはありません。合格率は公表されていませんが、ほぼ全員が修了証を取得できると言われています。
| 甲種防火管理講習 | 乙種防火管理講習 |
|---|---|
| ・日数:2日間(約10時間) ・費用:約8,000円 ・対象:延べ面積300㎡以上 ・乙種の範囲もカバーできる ・消防計画作成を詳しく学べる |
・日数:1日間(約5時間) ・費用:約7,000円 ・対象:延べ面積300㎡未満 ・甲種が必要な建物では使えない ・取得は手軽だが適用範囲が限定的 |
結論:飲食店開業なら甲種を取るのが正解な理由
飲食店の開業を前提にするなら、最初から甲種を取得することを強くおすすめします。理由は3つあります。第一に、費用差がわずか1,000円程度であること。第二に、将来的に店舗を移転・拡大した際に乙種では対応できないケースがあること。第三に、甲種の講習で学ぶ「消防計画の作成方法」は、実際の店舗運営で必ず役立つ実務知識であること。「1日で済むから乙種でいいや」と安易に選んだ結果、移転時に甲種が必要になり、もう一度2日間の講習を受け直す羽目になった——という話は開業者コミュニティでよく聞きます。たった1日の差なら、最初から甲種を取りましょう。
再講習が必要なケースと不要なケース
防火管理者の修了証に有効期限はありません。ただし例外があります。収容人数300人以上の特定防火対象物で甲種防火管理者として選任されている場合、5年ごとに再講習の受講が義務づけられています。個人経営の飲食店で収容人数300人を超えるケースはまれですが、大型のレストランやフードコート内の店舗では該当する可能性があります。再講習を受けなかった場合、防火管理者としての選任が取り消されるリスクがあるため、該当する場合はカレンダーに再講習の時期を登録しておきましょう。
飲食店の防火管理者資格を最短で取得する具体的な手順

講習の申し込みはオンラインで完結する
防火管理者講習の申し込みは、日本防火防災協会の公式サイトからオンラインで行えます。以前は消防署の窓口で直接申し込む必要がありましたが、現在はWeb上で講習日程の検索・申し込み・受講料の支払いまで完結します。申し込みに必要なのは、氏名・住所・連絡先などの基本情報のみで、特別な書類や事前審査はありません。講習は各都道府県で月に数回開催されていますが、人気のある日程はすぐに定員に達してしまいます。開業日から逆算して、少なくとも2か月前には申し込みを済ませておくのが安全です。
- Step1: 日本防火防災協会の公式サイトで講習日程を検索し、甲種防火管理新規講習に申し込む
- Step2: 受講料(約8,000円)をオンラインで支払い、受講票を印刷する
- Step3: 2日間の講習を受講し、効果測定に合格して修了証を受け取る
- Step4: 管轄の消防署で「防火管理者選任届出書」と「消防計画作成届出書」を提出する
講習当日の持ち物と服装——意外と知らない注意点
講習当日に必要な持ち物は、受講票・筆記用具・身分証明書の3点です。テキストは当日配布されるので事前購入は不要です。服装に規定はありませんが、2日間(甲種の場合)座りっぱなしになるので、楽な服装がおすすめです。昼食は持参するか、会場近くで購入する形になります。意外と知られていないのが「遅刻すると受講できない」というルールです。講習は各科目の受講時間が法令で定められているため、遅刻によって規定時間を満たせない場合は修了証が発行されません。交通機関の遅延も考慮して、余裕を持って会場に向かいましょう。
効果測定(テスト)の難易度と落ちた場合の対処法
講習の最後に行われる効果測定は、講習内容の理解度を確認するための簡易テストです。形式は○×問題や選択問題が中心で、講習中にメモを取っていれば問題なく解答できるレベルです。講師が「ここは重要です」「テストに出ます」と明示してくれることも多いので、そのポイントをしっかり押さえておけば心配はいりません。万が一、効果測定に不合格となった場合は、再度講習を受け直す必要があります。ただし、前述のとおり不合格になるケースは極めてまれです。不安な方は、消防庁のWebサイトで公開されている防火管理に関する資料に事前に目を通しておくと安心です。
開業スケジュールに組み込むベストなタイミング
防火管理者の講習は、物件の契約後・内装工事の着手前に受講するのがベストなタイミングです。理由は、講習で学ぶ「消防計画の作成方法」が内装設計の段階で役立つからです。避難経路の確保、消火器の設置位置、火気使用設備の配置などは、内装工事が始まってからでは変更が難しくなります。逆に、物件が決まる前に講習を受けても問題ありません。修了証に有効期限はないので、早めに取得しておいて損はありません。開業の3か月前までに修了証を取得し、2か月前に消防署への届出を完了させるスケジュールが理想的です。
防火管理者の届出で飲食店オーナーがつまずくポイントと提出書類一覧
届出先は「管轄の消防署」——保健所ではない
防火管理者の届出先は、店舗を管轄する消防署の予防課です。保健所ではありません。営業許可は保健所、防火管理者は消防署と、届出先が分かれている点が飲食店開業の手続きを複雑にしている要因のひとつです。届出のタイミングは、店舗の営業開始前です。消防署によっては事前に相談の予約が必要な場合もあるため、いきなり訪問するのではなく、電話で確認してから行くのがスムーズです。届出に手数料はかかりません。書類に不備がなければ、当日中に受理されます。
提出書類は「選任届出書」と「消防計画」の2点セット
提出する書類は主に2種類です。1つ目が「防火管理者選任(解任)届出書」で、誰を防火管理者に選任するかを届け出る書類です。2つ目が「消防計画作成(変更)届出書」で、店舗の防火管理体制を具体的に記載した計画書です。選任届出書は消防署の窓口または各自治体の消防局サイトからダウンロードできます。記載内容は、事業所名・所在地・管理権原者の氏名・防火管理者の氏名・修了証番号などで、特に難しい項目はありません。消防計画は、テンプレートが消防署で配布されているので、それに沿って自店舗の情報を記入していく形です。
- ☐ 防火管理者選任(解任)届出書
- ☐ 消防計画作成(変更)届出書
- ☐ 防火管理講習の修了証(原本提示+コピー提出)
- ☐ 店舗の平面図(避難経路・消火器の位置を記載)
- ☐ 届出者の印鑑(認印で可)
消防計画の作成が最大のハードル——でもテンプレを使えば1時間で終わる
多くの飲食店オーナーが「消防計画って何を書けばいいのかわからない」とつまずきます。しかし、実際にはゼロから書く必要はありません。消防署が用意しているテンプレート(ひな形)に、自店舗の情報を当てはめていくだけです。記載する主な内容は、火気使用設備の概要(ガスコンロ、フライヤーなど)、消防設備の設置状況(消火器の本数と設置場所、火災報知器の位置)、避難経路の設定、自衛消防組織の体制(小規模店舗の場合はオーナー1名でも可)、定期的な訓練の実施計画などです。不明な点があれば消防署の予防課の担当者が丁寧に教えてくれるので、遠慮なく質問しましょう。窓口で書き方を教わりながら完成させることもできます。
届出後に変更が生じたら「変更届」を忘れずに
防火管理者の届出は一度出して終わりではありません。防火管理者が交代した場合、店舗のレイアウトを大幅に変更した場合、火気使用設備を追加・変更した場合などには、変更届の提出が必要です。特に多いのが、防火管理者に選任していた従業員が退職し、届出の変更を忘れるケースです。消防署の立入検査で「届出上の防火管理者がすでに退職している」と指摘されると、是正命令の対象になります。従業員に防火管理者を任せている場合は、退職時の引き継ぎリストに「防火管理者の変更届」を必ず含めておきましょう。
資格を取って終わりじゃない|飲食店の防火管理者が日常やるべき業務
消防設備の定期点検は法定義務——怠ると罰則あり
防火管理者の業務として最も重要なのが、消防設備の定期点検です。消防法第17条の3の3により、消防設備の点検は年2回(機器点検6か月に1回、総合点検1年に1回)の実施が義務づけられています。点検対象は消火器、自動火災報知設備、誘導灯、避難器具などです。延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物では、点検は消防設備士または消防設備点検資格者に委託する必要があります。1,000㎡未満であれば自主点検も可能ですが、専門業者に委託する方が確実です。点検費用は店舗の規模にもよりますが、小規模な飲食店で1回あたり2万〜5万円程度が相場です。点検結果は消防署に報告する義務があり、特定防火対象物の場合は1年に1回の報告が必要です。
避難訓練は年2回——従業員と一緒にやるのがポイント
特定防火対象物に該当する飲食店では、年2回以上の消防訓練(避難訓練・消火訓練・通報訓練)を実施し、消防署に届け出る義務があります。「飲食店で避難訓練なんて大げさでは?」と思うかもしれませんが、実際に火災が起きたとき、パニックにならずに客を安全に誘導できるかどうかは、事前の訓練にかかっています。訓練は営業時間外に行うのが一般的で、所要時間は30分〜1時間程度です。消防署に連絡すれば、署員が訓練に立ち会ってくれることもあります。訓練のたびに課題が見つかるので、形式的にこなすのではなく、実際の火災を想定して真剣に取り組みましょう。
日常的な火気管理と従業員教育
防火管理者のもうひとつの重要な役割が、日常的な火気管理です。具体的には、ガスコンロやフライヤーの周辺に可燃物が置かれていないかの確認、排気ダクトの油汚れの点検、電気配線の劣化チェック、避難経路に物が置かれていないかの確認などです。これらは毎日の営業開始前・終了後のルーティンに組み込むのが効果的です。また、新しいスタッフが入ったときの防火教育も防火管理者の業務です。消火器の使い方、火災報知器が鳴ったときの対応手順、避難経路の確認を、入店時のオリエンテーションに含めておきましょう。飲食店の火災は「慣れ」から生まれることが多いです。ベテランスタッフほど油断しやすいので、定期的な注意喚起が欠かせません。
消防設備の点検や避難訓練は、開業直後は「面倒くさい」と感じるかもしれません。しかし、万が一火災が起きたときに従業員やお客さまの命を守れるかどうかは、日頃の備えにかかっています。また、消防署の立入検査で不備が見つかると営業に支障が出ます。「お店を守るための日常業務」として習慣化してしまえば、大した手間ではありません。飲食店経営は「食」だけでなく「安全」も商売の土台です。
消防署の立入検査に備えておくべきこと
消防署は、特定防火対象物に対して定期的に立入検査を行います。事前に通知がある場合と抜き打ちの場合があります。検査で確認されるのは、消防計画どおりに管理されているか、消防設備が正常に作動するか、避難経路が確保されているか、消防訓練が実施されているかなどです。検査で不備が見つかると「改善指導書」または「是正命令書」が交付されます。是正命令に従わない場合、罰則の対象となり、悪質な場合は店舗名が公表されることもあります。日頃から消防計画に沿った管理を行っていれば、立入検査を恐れる必要はありません。むしろ、検査を「プロの目で安全性をチェックしてもらえる機会」と捉えるくらいの姿勢が理想的です。
飲食店の防火管理者選任でありがちな失敗パターンと回避策
失敗パターン1:講習の予約が取れず開業日に間に合わない
最も多い失敗がこれです。防火管理者の講習は各地域で月に数回しか開催されておらず、特に東京・大阪・名古屋などの都市部では1〜2か月先まで満席ということも珍しくありません。開業日が迫ってから「そういえば防火管理者の資格がまだだった」と気づいても、直近の講習に空きがなければ対応できません。対策はシンプルで、物件の契約が決まった段階ですぐに講習の空き状況を確認し、申し込むことです。開業予定日の3か月前には修了証を手にしている状態を目指しましょう。万が一、地元の講習が満席の場合は、近隣の都道府県で開催される講習を受講することも可能です。講習は全国共通の資格なので、どこで受けても効力は同じです。
防火管理者の届出が完了していない状態で営業を開始すると、消防法違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。「あとで届出すればいい」という考えは通用しません。開業日までに必ず届出を完了させてください。
失敗パターン2:修了証を取っただけで届出を忘れる
講習を受けて修了証を受け取ると、「これで防火管理者の資格は取れた」と安心してしまい、消防署への届出を忘れるケースがあります。前述のとおり、修了証は「講習を修了した証明」にすぎず、消防署に選任届出書と消防計画を提出して初めて正式に防火管理者として認められます。この届出を忘れたまま営業を開始し、消防署の立入検査で指摘される——というのが典型的な失敗パターンです。講習を受けたら、その週のうちに消防署へ届出に行くくらいのスピード感で動きましょう。
失敗パターン3:従業員を防火管理者にしたが退職時に変更届を出さない
複数店舗を運営するオーナーの場合、各店舗の店長を防火管理者に選任することがあります。しかし、その店長が退職した際に防火管理者の変更届を出し忘れるケースが頻発しています。消防署の記録上は退職した元従業員が防火管理者のままになっており、実質的に防火管理者不在の状態になってしまいます。このまま火災が起きた場合、管理権原者(オーナー)が消防法上の責任を問われる可能性があります。対策としては、退職手続きのチェックリストに「防火管理者の変更届」を入れておくことです。後任の防火管理者が資格を持っていない場合は、速やかに講習を受けさせましょう。
| 遅延原因 | 該当割合(目安) |
|---|---|
| 防火管理者講習の予約が取れない | 約25% |
| 内装工事の消防検査で不適合 | 約30% |
| 保健所の営業許可申請の書類不備 | 約20% |
| 資金調達の遅れ | 約15% |
| その他(物件引渡し遅延など) | 約10% |
※飲食店開業支援サービスの相談事例をもとに独立開業のリアルが集計した目安値
実は意外と知られていない——防火管理者講習は「開業前」でなくても受けられる
防火管理者講習の受講資格に「事業を営んでいること」という条件はありません。つまり、会社員のうちに受講しておくことが可能です。これは意外と知られていない事実で、副業として飲食店の開業を検討している段階で先に資格を取っておけば、いざ開業するときに手続きがひとつ減ります。講習は平日に開催されることが多いですが、土日開催の講習も一部あります。有給休暇を使って平日に受講するのが現実的ですが、開業準備で会社を辞めた直後の時間に余裕があるタイミングで受けるのも良いでしょう。いずれにしても、「開業を決めてから取ればいい」と後回しにするのではなく、「取れるときに取っておく」のが賢い選択です。
飲食店の防火管理者と合わせて知っておくべき消防関連の手続き
防火対象物使用開始届出書——内装工事の7日前までに提出
飲食店を新規に開業する場合、または既存の建物の用途を変更して飲食店にする場合、「防火対象物使用開始届出書」を消防署に提出する必要があります。提出期限は使用開始(工事開始)の7日前までです。この届出は防火管理者の届出とは別の手続きで、店舗の概要・内装材料・火気使用設備・消防設備の設計図などを記載します。届出を怠った場合の罰則はありませんが、後日の消防検査で問題が見つかると、工事のやり直しを求められるリスクがあります。内装工事の設計段階で、施工業者と一緒に消防署に事前相談に行くのがベストです。
消防検査——営業許可の前にクリアすべき関門
内装工事が完了した段階で、消防署による消防検査(使用開始検査)が行われます。検査項目は、消防設備の設置状況、避難経路の確保、内装材料の防火性能、火気使用設備の安全性などです。検査に合格すると「検査済証」が交付され、これが営業許可申請の前提条件となる場合があります。つまり、消防検査に通らないと保健所の営業許可も下りない可能性があるということです。消防検査で不合格になる主な原因は、避難口の幅が基準に満たない、誘導灯の設置場所が不適切、排気ダクトと可燃材の距離が近すぎるなどです。内装工事の段階で消防法の基準を満たしているか確認しておきましょう。
火を使わない飲食店でも防火管理者は必要なのか
IHコンロのみを使用するカフェや、調理をせずに仕入れた商品を提供するテイクアウト専門店の場合でも、収容人数が30人以上であれば防火管理者の選任は必要です。防火管理者の選任義務は「火を使うかどうか」ではなく「特定防火対象物に該当するかどうか」と「収容人数」で判断されます。飲食店は業態にかかわらず特定防火対象物に分類されるため、火を使わない業態でも同じルールが適用されます。ただし、火を使わない場合は火気管理の負担が軽減されるため、消防計画の内容は火を使う店舗と異なるものになります。
防火管理者の届出、防火対象物使用開始届出書、消防検査——飲食店の開業に関わる消防手続きは複数あり、それぞれ提出先・タイミング・書類が異なります。混乱しやすいので、開業準備のスケジュール表を作成し、各手続きの期限を一覧化しておくことをおすすめします。
まとめ|飲食店の防火管理者は開業準備の最優先タスクにすべき理由
飲食店の防火管理者について、資格の取得から届出、日常業務、よくある失敗パターンまで解説してきました。防火管理者は飲食店経営の「裏方」的な存在ですが、選任を怠ると消防法違反で罰則を受けるリスクがあり、開業スケジュール全体に影響を及ぼす重要な手続きです。「あとでやればいい」と後回しにした結果、講習の予約が取れずにオープン日を延期した——そんな先輩たちの失敗を繰り返さないでください。
この記事の要点を整理します。
- 収容人数30人以上の飲食店は防火管理者の選任が法的義務。30人の計算には従業員も含まれる
- 甲種と乙種の2種類があり、費用差はわずか約1,000円。迷ったら甲種を取得すれば間違いない
- 講習はオンラインで申し込み可能。甲種は2日間・約8,000円で取得できる
- 修了証を取っただけでは不十分。消防署への選任届出書と消防計画の提出が必要
- 防火管理者の業務は資格取得後も続く。消防設備点検(年2回)、避難訓練(年2回)、日常の火気管理が求められる
- 講習は会社員のうちでも受講可能。開業を決めたら早めに予約を取るのが鉄則
- 防火対象物使用開始届出書や消防検査など、関連する消防手続きも合わせて把握しておく
最初の一歩として、今日やるべきことはひとつです。日本防火防災協会のWebサイトで、あなたの地域の甲種防火管理新規講習の日程を検索してください。空きがあればその場で申し込む。これだけで、開業準備の不安要素がひとつ確実に消えます。防火管理者の資格取得は、飲食店開業という夢を実現するための地味だけど欠かせないステップです。面倒がらずに、早めに動いておきましょう。
