「食品衛生責任者」と「食品衛生管理者」。名前が似すぎていて、どっちを取ればいいのか分からない——飲食店の開業準備中に、この疑問でつまずく人は少なくありません。結論から言うと、飲食店を開くなら必要なのは「食品衛生責任者」です。ただし、将来的に食品製造や加工に事業を広げるなら「食品衛生管理者」も視野に入ります。この2つは管轄機関も取得方法もまったく異なる資格で、間違えると開業スケジュールが大幅にずれることもあります。この記事では、食品衛生責任者と管理者の違いを比較表・取得手順・失敗事例を交えて解説します。読み終えるころには「自分に必要な資格はどちらか」「いつまでに何をすればいいか」が明確になっているはずです。
食品衛生責任者と管理者の違い|「似た名前」で混同すると開業でつまずく

そもそも食品衛生責任者とは何か|飲食店開業の”入場チケット”
食品衛生責任者は、飲食店や食品販売店など、食品を取り扱うすべての営業施設に1名以上の配置が義務付けられている資格です。管轄は各都道府県の自治体で、食品衛生法に基づく営業許可を取得する際に「この人が衛生管理を担当します」と届け出る必要があります。
取得方法は非常にシンプルで、各地域の食品衛生協会が実施する養成講習会(約6時間・1日で完了)を受講するだけです。受講費用は自治体によって異なりますが、おおむね10,000〜12,000円程度。調理師免許や栄養士などの資格を持っている人は講習が免除され、そのまま食品衛生責任者になれます。
注意すべきは、この資格はあくまで「施設ごと」に必要だという点です。2店舗目を出すなら、2人目の食品衛生責任者が必要になります。自分が1店舗目の責任者として届け出ている場合、2店舗目にはスタッフの誰かに講習を受けてもらう必要があるのです。
食品衛生管理者は国家資格|配置が必要な業種は限定的
一方の食品衛生管理者は、厚生労働省が管轄する国家資格です。配置が義務付けられるのは、食品衛生法第48条で定められた「特定の食品・添加物を製造・加工する施設」に限られます。具体的には、乳製品、食肉製品、魚肉ソーセージ、食用油脂、マーガリン、添加物の製造施設などです。
取得要件は食品衛生責任者よりはるかに厳しく、医師・歯科医師・薬剤師・獣医師の免許保持者、あるいは大学で医学・歯学・薬学・獣医学・畜産学・水産学・農芸化学の課程を修了した者が対象です。それ以外の場合は、該当施設で3年以上の衛生管理業務経験を積んだうえで、厚生労働大臣の登録を受けた講習会を修了する必要があります。
つまり、街の飲食店やカフェを開業するだけなら食品衛生管理者は不要です。しかし「自家製ソーセージを工場で量産して卸売りしたい」といったケースでは必要になるため、事業計画の方向性次第で関わってきます。
名前が似ているだけで中身は別物|混同が起きる3つの理由
この2つの資格が混同される理由は主に3つあります。第一に、名前が「食品衛生」で始まり「者」で終わるため、検索しても情報が混在しやすいこと。第二に、自治体の窓口やWebサイトでも説明が不十分な場合があり、問い合わせても曖昧な回答をされるケースがあること。第三に、「食品衛生管理者は食品衛生責任者を兼ねられる」という上位互換の関係があるため、「じゃあ管理者を取れば万能なのでは」と誤解する人がいることです。
実際には、飲食店開業だけが目的なら管理者資格を目指すのは遠回りです。管理者資格は取得に数年かかるケースもあるため、開業スケジュールに大きな影響を及ぼします。まずは自分の事業形態に合った資格を正確に把握することが、最短ルートでの開業につながります。
食品衛生責任者=飲食店・販売店に必須の自治体資格(1日で取得可)。食品衛生管理者=特定の製造施設に必要な国家資格(取得に数年かかる場合も)。飲食店開業なら「責任者」一択です。
食品衛生責任者と管理者の違いを比較表で整理|資格要件・費用・取得期間
7つの項目で一目瞭然|比較表で違いを確認する
文章だけでは分かりにくい部分も、比較表にすると一目で把握できます。以下の表は、飲食店開業を検討している人が特に知りたい7項目に絞って整理したものです。
| 比較項目 | 食品衛生責任者 | 食品衛生管理者 |
|---|---|---|
| 管轄 | 各都道府県(自治体) | 厚生労働省(国) |
| 資格の種類 | 公的資格 | 国家資格 |
| 配置が必要な施設 | 飲食店・食品販売店・食品製造施設など全般 | 乳製品・食肉製品・添加物など特定の製造施設 |
| 取得方法 | 養成講習会(約6時間)を受講 | 指定学歴または実務経験3年+講習会 |
| 費用 | 10,000〜12,000円程度 | 大学の学費 or 講習会費数万円+実務経験期間 |
| 取得期間 | 1日(講習免除者は即日) | 最短でも数ヶ月〜数年 |
| 更新の有無 | 実務講習の受講が必要(自治体により頻度は異なる) | 更新不要(一度取得すれば有効) |
この表で分かる通り、飲食店開業であれば食品衛生責任者の取得が最優先です。1日の講習と約1万円で取得できるため、開業準備の初期段階で済ませておくのが賢明です。
資格の上下関係|管理者は責任者を兼ねられるが逆はできない
食品衛生管理者と食品衛生責任者の間には明確な上下関係があります。食品衛生管理者の資格を持っていれば、食品衛生責任者としても届出ができます。しかし逆に、食品衛生責任者の資格だけでは食品衛生管理者にはなれません。
これは国家資格と公的資格の違いから来ています。食品衛生管理者は医学・薬学などの専門教育を受けた人、あるいは長期の実務経験を積んだ人が対象のため、衛生管理に関するより深い知識を持っているとみなされるのです。
ただし「上位資格だから管理者を取っておけば安心」という発想は危険です。飲食店開業が目的なら、管理者資格の取得に何年もかけるより、責任者資格を1日で取得して開業準備を進めるほうが合理的です。資格の上下ではなく、自分の事業に必要な資格を選ぶことが大切です。
もう1つの紛らわしい資格|「衛生管理者」との違いも整理する
実は、もう1つ混同されやすい資格があります。労働安全衛生法に基づく「衛生管理者」です。これは従業員50人以上の事業所に配置が義務付けられる資格で、食品衛生とは直接関係ありません。職場の労働環境(換気・照明・温度など)や従業員の健康管理が目的です。
つまり「食品衛生責任者」「食品衛生管理者」「衛生管理者」の3つは、それぞれ法律も管轄も目的も異なります。飲食店を1〜2店舗で始めるなら、実質的に必要なのは食品衛生責任者だけです。従業員が50人を超える規模になったときに初めて衛生管理者が必要になりますが、開業時点で心配する必要はありません。
飲食店を開くなら食品衛生責任者が必須|取得までの全ステップ

養成講習会の申し込みから受講当日までの流れ
食品衛生責任者の取得は、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会を受講するのが基本ルートです。具体的な手順はこうなります。
Step1:最寄りの食品衛生協会のWebサイトで講習会の日程を確認する。東京都の場合は一般社団法人東京都食品衛生協会のサイトから予約可能です。人気の日程はすぐに埋まるため、1〜2ヶ月前から確認しておくのがおすすめです。
Step2:オンラインまたは電話で申し込みを行い、受講料を支払う。自治体によってはeラーニング形式を導入しているところもあり、2024年以降はオンライン受講に対応する自治体が増えています。
Step3:講習当日は約6時間のカリキュラムを受講する。内容は「衛生法規」「公衆衛生学」「食品衛生学」の3科目で、テストはありますが不合格になることはほぼありません。
Step4:講習修了後、修了証書(食品衛生責任者手帳)が交付される。この修了証書は営業許可の申請時に保健所に提示する必要があるため、紛失しないよう保管してください。
- Step1: 地元の食品衛生協会サイトで直近の講習日程をチェック
- Step2: eラーニング対応かどうかを確認(対応していれば在宅で受講可能)
- Step3: 開業予定日から逆算して2ヶ月前までに受講を完了させるスケジュールを立てる
講習免除の対象者|調理師・栄養士ならすでに資格あり
意外と知られていませんが、以下の資格を持っている人は養成講習会を受けなくても食品衛生責任者になれます。調理師、栄養士、管理栄養士、製菓衛生師、食鳥処理衛生管理者、船舶料理士、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師などが該当します。
つまり、調理師免許を持っているのに「食品衛生責任者の講習も受けなきゃ」と焦る必要はありません。保健所に営業許可を申請する際、調理師免許の写しを提出すれば食品衛生責任者として届出ができます。
ただし注意点が1つ。講習免除で食品衛生責任者になった場合でも、自治体によっては定期的な実務講習の受講を求められることがあります。この実務講習は養成講習会とは別物で、すでに責任者として届け出ている人が最新の衛生知識をアップデートするためのものです。頻度は自治体ごとに異なりますが、おおむね1〜3年に1回程度です。
eラーニング化が進む養成講習|自宅で取得できる自治体も
2020年以降、新型コロナウイルスの影響もあり、食品衛生責任者の養成講習会をeラーニング形式で実施する自治体が増えました。東京都、大阪府、神奈川県など主要な都道府県ではオンライン受講が可能になっています。
eラーニングのメリットは、会場に行かなくても自宅で受講できること、自分のペースで学習を進められること、そして日程の融通が利くことです。特に会社員をしながら開業準備を進めている人にとっては、平日に丸一日休みを取る必要がないのは大きな利点です。
ただしデメリットもあります。eラーニングの場合、修了証書の受け取りに数週間かかることがあります。対面講習なら当日手渡しですが、eラーニングでは郵送になるため、営業許可の申請スケジュールに余裕を持っておく必要があります。開業日から逆算して、最低でも1ヶ月前にはeラーニングを修了しておくのが安全です。
食品衛生管理者が必要になる業種とは|工場・製造業の配置義務
食品衛生法第48条で定められた対象施設を具体的に知る
食品衛生管理者の配置が義務付けられるのは、食品衛生法第48条に定める特定の食品や添加物を製造・加工する施設です。具体的には以下の製品を扱う施設が該当します。全粉乳(加糖を除く)、加糖粉乳、調製粉乳、食肉製品(ハム・ソーセージ・ベーコンなど)、魚肉ハム・魚肉ソーセージ、放射線照射食品、食用油脂(マーガリン・ショートニング含む)、添加物です。
ここで重要なのは、「飲食店でソーセージを手作りして提供する」程度では食品衛生管理者は不要だという点です。管理者が必要になるのは、これらの製品を工場で大量に「製造・加工」する場合です。レストランの厨房で調理して客に出すのは「調理」であり「製造」とは異なります。
ただし、飲食店とは別に食品製造の事業を並行して行う場合は話が変わります。例えば「自分の飲食店で人気のドレッシングを工場で量産して通販で売りたい」となると、製造品目によっては食品衛生管理者が必要になる可能性があります。事業を拡大するフェーズでは、保健所に事前相談するのが確実です。
食品衛生管理者になれる人の条件|学歴要件と実務経験ルート
食品衛生管理者の資格を取得するには、大きく2つのルートがあります。1つ目は学歴要件を満たすルート。医師、歯科医師、薬剤師、獣医師の免許を持つ人、または大学で医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の課程を修了した人は、そのまま食品衛生管理者になれます。
2つ目は実務経験ルート。食品衛生管理者を置かなければならない施設で、衛生管理の業務に3年以上従事した人が、厚生労働大臣の登録を受けた講習会(約30日間のカリキュラム)を修了することで資格を得られます。
いずれのルートも、食品衛生責任者と比べるとハードルが格段に高いことが分かります。飲食店開業を目指す段階で「念のため管理者も取っておこう」というのは現実的ではありません。まずは責任者資格で開業し、事業の方向性が固まってから管理者資格の要否を判断するのが合理的です。
食品衛生管理者の実務経験ルートは「3年以上の衛生管理業務経験+約30日間の講習会」が必要です。飲食店のアルバイト経験は対象外になるケースが多いため、事前に保健所か厚生労働省に確認してください。
将来の事業拡大を見据えて|管理者資格を視野に入れるべきタイミング
飲食店経営が軌道に乗り、次のステージとして食品製造・卸売に進出する場合、食品衛生管理者の取得を検討するタイミングが来ます。具体的には、「OEM委託ではなく自社工場で製造したい」「食肉製品や乳製品を大量に加工・販売したい」という事業計画が具体化した段階です。
その際、学歴要件を満たさない場合は実務経験3年+講習会のルートを歩むことになります。つまり、管理者資格が必要になると分かった時点から最低3年は準備期間がかかるということです。この「3年」を見越して早めに動き始めるか、あるいは管理者資格を持つ人材を採用するかの判断が必要になります。
中小規模の食品事業者の中には、管理者資格を持つ人材をパートタイムや業務委託で確保している例もあります。自分で資格を取るだけが選択肢ではないことも覚えておくとよいでしょう。
食品衛生責任者と管理者の違いを知らずに起きた失敗パターン
失敗例①:管理者資格を取ろうとして開業が2年遅れたケース
ある脱サラ志望の会社員が、飲食店を開業するために「食品衛生管理者」の資格取得を目指し始めました。ネットで調べた際に「管理者のほうが上位資格」「管理者なら責任者も兼ねられる」という情報を見て、「どうせなら上位資格を取ろう」と考えたのです。
しかし、大学の専攻は文学部。学歴要件を満たさないため、実務経験ルートしかありません。食品製造施設での衛生管理業務を3年積む必要があると分かり、結局そのルートは断念。改めて食品衛生責任者の講習会を受け直したものの、その間に物件の契約タイミングを逃し、開業計画が約2年遅れました。
このケースの教訓は明確です。飲食店開業に必要なのは食品衛生責任者であり、管理者資格は不要。「上位だから」という理由で遠回りすると、開業の機会損失につながります。
開業準備は「必要なことを、必要な順番で」が鉄則です。資格取得は最も早く確実に終わらせられるタスクの1つ。講習会の予約は物件探しと並行して早めに済ませましょう。講習日が合わずに1ヶ月待ち、というのはよくある話です。
失敗例②:食品衛生責任者の届出を忘れて保健所検査で指摘されたケース
もう1つの失敗パターンは、食品衛生責任者の資格は取得したものの、保健所への届出を忘れていたケースです。養成講習会を修了して修了証書を受け取ったことで「資格を取った」と安心してしまい、営業許可申請時に食品衛生責任者として届け出る手続きを漏らしていたのです。
営業開始後の保健所による立入検査で「食品衛生責任者の届出がされていない」と指摘され、改善指導を受けることになりました。最悪の場合、営業停止や営業許可の取消しにつながるリスクもあります。
資格を取っただけでは不十分で、保健所への届出まで完了して初めて「食品衛生責任者が配置されている」と認められます。開業時のチェックリストに「食品衛生責任者の届出」を必ず入れておきましょう。資金計画の甘さで半年で廃業するパターンも多いですが、こうした手続き面のミスも開業直後のトラブルとしては意外と多いのです。
「どっちを取ればいいか分からない」を放置するリスク
食品衛生責任者と管理者の違いが分からないまま放置すると、最も危険なのは「何も取らずに開業準備を進めてしまう」ことです。物件契約、内装工事、メニュー開発に集中するあまり、資格取得を後回しにする人は少なくありません。
しかし、営業許可の申請には食品衛生責任者の届出が必須です。講習会の予約が埋まっていて受講が1〜2ヶ月先になると、その分だけ開業が遅れます。家賃は物件契約時から発生しているため、開業が遅れた分だけ赤字が膨らむことになります。
「分からないから後で調べよう」を繰り返すと、気づいたときには取り返しがつかない事態になりかねません。この記事を読んでいる今この瞬間に、自分に必要な資格を確認し、講習会の日程をチェックするところまでやってしまうのが最善策です。
資格取得だけで安心しない|届出・更新講習・保健所対応のリアル
営業許可申請と食品衛生責任者届出の手順|保健所で何をするか
食品衛生責任者の資格を取得したら、次は保健所での営業許可申請です。手順は以下の通りです。Step1:管轄の保健所に事前相談を行い、施設の設計図面を確認してもらう。Step2:必要書類(営業許可申請書、施設の構造・設備を示す図面、食品衛生責任者の修了証書の写しなど)を揃えて申請する。Step3:保健所による施設の立入検査を受ける。Step4:検査に合格すれば営業許可証が交付される。
この一連の流れの中で、食品衛生責任者の届出は申請書類に含まれます。つまり、営業許可の申請=食品衛生責任者の届出と考えて問題ありません。ただし、営業開始後に食品衛生責任者が変わる場合(退職など)は、速やかに変更届を提出する必要があります。
保健所の事前相談は無料で、予約制のところが多いです。図面の段階で「この設計だと許可が下りない」と指摘してもらえるため、内装工事に着手する前に必ず相談に行くことをおすすめします。工事完了後に「手洗い場の位置が基準を満たしていない」と言われたら、やり直しで数十万円の追加費用が発生します。
実務講習の受講義務|更新制度はないが放置はNG
食品衛生責任者の資格自体に有効期限はありません。一度取得すれば生涯有効です。しかし、多くの自治体で「実務講習」の定期的な受講を求めています。これは資格の更新ではなく、最新の食品衛生に関する知識をアップデートするための講習です。
実務講習の頻度は自治体によって異なりますが、概ね1年に1回から3年に1回程度です。受講しなかったからといって即座に資格が取り消されるわけではありませんが、保健所の立入検査で「実務講習を受けていない」と指摘されることがあります。
食品衛生に関する法令や基準は定期的に改正されます。例えば2021年6月にはHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が全食品事業者に義務化されました。こうした重要な変更を知らずに営業を続けていると、知らないうちに法令違反を犯すリスクがあります。実務講習は「面倒な義務」ではなく「自分の店を守るための投資」と考えるべきです。
- ☐ 食品衛生責任者の修了証書を安全な場所に保管したか
- ☐ 管轄の保健所に事前相談の予約を入れたか
- ☐ 営業許可申請書に食品衛生責任者の届出を含めたか
- ☐ 実務講習の受講スケジュールを確認したか
- ☐ HACCPに沿った衛生管理計画を作成したか
保健所の立入検査で見られるポイント|責任者として知っておくべきこと
営業許可取得後も、保健所は定期的に立入検査を行います。食品衛生責任者として特に注意すべき検査ポイントは、食品の温度管理(冷蔵庫の温度記録など)、手洗い設備の適切な使用、従業員の健康管理記録、清掃・消毒の実施状況、そしてHACCPに基づく衛生管理記録の有無です。
実は意外と知られていないのですが、保健所の検査官は「完璧な施設」を求めているわけではありません。重要なのは「衛生管理を日常的に行い、記録を残しているか」です。温度記録や清掃記録を毎日つけている店舗は、多少の不備があっても「改善指導」で済むことが多いです。一方、記録が一切ない店舗は「衛生管理の意識がない」と判断され、厳しい指導を受ける可能性が高くなります。
食品衛生責任者の役割は、こうした日々の衛生管理を主導し、記録を残すことです。資格を取って終わりではなく、営業を続ける限り責任者としての業務が続くことを理解しておきましょう。
副業・独立フェーズ別|あなたに必要な資格はどっち?

副業検討期:まだ資格は不要だが「どの資格が必要か」は把握しておく
会社員として働きながら「いつか飲食店を開きたい」と考えている段階では、まだ資格を取得する必要はありません。ただし、この段階でやっておくべきことが1つあります。それは、自分がやりたい事業に必要な資格を正確に把握しておくことです。
飲食店やカフェなら食品衛生責任者。食品製造・加工の工場を構えるなら食品衛生管理者。この線引きを理解しておくだけで、後の準備がスムーズになります。中小企業庁の「小規模事業者白書」によると、開業準備に1年以上かけた事業者は開業後の生存率が高い傾向にあります。資格の調査は準備の第一歩です。
またこの時期に、地元の食品衛生協会のサイトをブックマークしておくのもおすすめです。講習会の日程は定期的に更新されるため、いざ申し込もうと思ったときにすぐアクセスできるようにしておきましょう。
副業実践期:週末カフェやネット販売を始めるなら食品衛生責任者を取る
副業として週末だけカフェを営業したい、あるいは自家製の焼き菓子をネット販売したいという段階に入ったら、食品衛生責任者の取得が必要です。たとえ週末だけの営業でも、食品を調理・販売する以上は営業許可が必要であり、食品衛生責任者の配置義務は同じです。
副業で飲食事業を始める場合、平日は会社員として働いているため講習会の受講が難しいと感じるかもしれません。しかし前述の通り、eラーニングに対応している自治体なら自宅で受講可能です。土日に対面講習を実施している協会もあるため、スケジュールを確認してみてください。
注意点として、シェアキッチンやレンタルキッチンを利用する場合でも、自分が営業許可を取得するなら食品衛生責任者は必要です。「場所を借りるだけだから不要」と思い込むのは危険です。キッチンのオーナーが営業許可を持っていても、それはオーナーの許可であって、あなた自身の営業には別途許可が必要になります。
独立開業のリアル調べ:飲食業の開業後生存率
| 経過年数 | 生存率(飲食業) | 全業種平均 |
|---|---|---|
| 1年後 | 約65% | 約72% |
| 3年後 | 約45% | 約55% |
| 5年後 | 約30% | 約42% |
| 10年後 | 約10% | 約26% |
(出典:中小企業庁「中小企業白書」各年版・日本政策金融公庫「新規開業実態調査」を基に独立開業のリアル編集部が整理)
独立準備期:開業届・営業許可と合わせて資格取得を一気に進める
いよいよ独立を決意し、具体的な開業準備に入る段階です。この時期にやるべきことは多いですが、食品衛生責任者の取得は最も早く片付けられるタスクの1つです。以下の順番で進めるのが効率的です。
Step1:食品衛生責任者の講習を受講する(調理師免許等があれば不要)。Step2:物件を決めて内装の設計に入る前に、保健所に事前相談に行く。Step3:内装工事を進めながら、並行して営業許可の申請書類を準備する。Step4:工事完了後、保健所の立入検査を受けて営業許可を取得する。Step5:開業届を税務署に提出する。
ここで意外と知られていないポイントがあります。開業届と営業許可は別物です。開業届は税務署に出す書類で、事業を始めたことを届け出るもの。営業許可は保健所に出す書類で、食品を取り扱う施設の安全性を確認するもの。両方とも必要ですが、管轄も手続きも全く異なります。
食品衛生責任者の取得→保健所への事前相談→物件契約→内装工事→営業許可取得→開業届提出、この流れを頭に入れておけば、手戻りなく準備を進められます。
事業拡大期:食品製造に進出するなら管理者資格の検討を始める
飲食店経営が安定し、次のフェーズとして自社製品の製造・卸売に進出する場合、食品衛生管理者の要否を検討するタイミングです。繰り返しになりますが、管理者が必要なのは食品衛生法第48条に定める特定の製品を製造する場合に限られます。
「自分の店のタレをボトルに詰めて販売したい」程度であれば、多くの場合は食品衛生管理者は不要です(ただし、製造業としての営業許可は別途必要)。一方、食肉製品やマーガリンなどの特定品目を自社工場で製造するなら、管理者の配置が義務です。
事業拡大の方向性が見えてきた段階で、まずは保健所に相談することをおすすめします。「この製品を製造する場合、食品衛生管理者は必要ですか?」と具体的に聞けば、明確な回答が得られます。自分で判断せず、専門家に確認するのが最も確実なリスク回避法です。
食品衛生責任者と管理者の違いに関するよくある疑問Q&A
Q1. 食品衛生責任者と管理者の両方を持っていたほうが有利?
結論から言えば、飲食店経営だけが目的なら「両方持つ」メリットはほとんどありません。食品衛生管理者は食品衛生責任者を兼ねられるため、管理者を持っていれば責任者としても届出可能です。しかし、管理者資格の取得には大学の指定学部卒業または3年以上の実務経験が必要なため、飲食店開業のためだけに取得するのは非効率です。
一方、将来的に食品製造業への進出を考えているなら、管理者資格を持っていることは大きなアドバンテージになります。ただしそれは「飲食店が軌道に乗った後」に考えれば十分です。今の段階では食品衛生責任者を取得し、1日でも早く開業準備を進めることに集中しましょう。
実際のところ、両方の資格を持っている人のほとんどは、大学で食品系の学部を卒業した後に飲食業界に入った人です。学歴要件を自然に満たしているため、結果的に両方の資格を持っている形です。わざわざ両方を「取りに行く」必要はありません。
Q2. 法人で開業する場合、社長が食品衛生責任者にならないとダメ?
いいえ、社長本人が食品衛生責任者になる必要はありません。食品衛生責任者は「施設ごとに1名以上」の配置が義務付けられているだけで、その人が経営者である必要はないのです。店長やスタッフの誰かが養成講習会を修了していれば、その人を食品衛生責任者として届け出ることができます。
ただし現実的には、小規模な飲食店であれば経営者自身が食品衛生責任者を兼ねるケースが多いです。理由は単純で、開業初期はスタッフの入れ替わりが起きやすく、責任者として届け出たスタッフが辞めてしまうと変更届の手続きが必要になるからです。
法人として複数店舗を展開する場合は、各店舗の店長に講習を受けさせて食品衛生責任者にするのが一般的です。1人の責任者が複数の施設を兼任することはできないため、店舗数分の責任者が必要になることを事業計画に織り込んでおきましょう。
食品衛生責任者は施設ごとに1名以上が必要。複数店舗を展開するなら店舗数分の資格者を確保する計画を立てておきましょう。講習会の受講費用(1人あたり約1万円)も人材育成費として予算に組み込むのが賢明です。
Q3. 食品衛生責任者の講習を受けずに営業を始めたらどうなる?
食品衛生責任者を配置せずに営業を行った場合、食品衛生法違反となります。保健所の立入検査で発覚すれば、まず改善指導が入り、改善されなければ営業停止や営業許可の取消しといった行政処分を受ける可能性があります。
そもそも、食品衛生責任者の届出がなければ営業許可自体が下りないため、正規の手続きを踏んでいれば「責任者なしで営業」という状態にはなりません。問題が起きるのは、責任者として届け出ていた人が退職し、後任の届出をしないまま営業を続けているケースです。
このリスクを避けるために、経営者自身が食品衛生責任者の資格を持っておくことをおすすめします。スタッフが辞めても自分が責任者になれるため、変更届を出すだけで対応できます。講習は1日、費用は約1万円。この投資で営業停止リスクを回避できるなら、安いものです。
Q4. 移動販売(キッチンカー)でも食品衛生責任者は必要?
はい、キッチンカーで食品を調理・販売する場合も食品衛生責任者の配置は必要です。キッチンカーは固定店舗と同様に営業許可が必要であり、許可申請の際に食品衛生責任者の届出が求められます。
キッチンカーで注意が必要なのは、営業する地域ごとに営業許可が必要になる場合があるという点です。A市の保健所で取得した営業許可はA市内でしか有効でなく、隣のB市で営業するにはB市の保健所でも営業許可を取得する必要があります(ただし、食品衛生責任者の資格自体は全国共通で有効)。
2021年の食品衛生法改正により、営業許可の手続きが一部簡素化されましたが、基本的な仕組みは変わっていません。キッチンカーでの開業を考えているなら、出店予定エリアすべての保健所に事前相談しておくのが確実です。
まとめ|食品衛生責任者と管理者の違いを正しく理解して最短で開業準備を進めよう
食品衛生責任者と食品衛生管理者は、名前こそ似ていますが、管轄・取得方法・配置義務のすべてが異なる別の資格です。飲食店を開業するなら、必要なのは食品衛生責任者。1日の講習と約1万円で取得でき、開業準備の中で最も手早く終わらせられるステップです。
この記事のポイントを整理します。
- 食品衛生責任者は自治体管轄の公的資格、食品衛生管理者は厚生労働省管轄の国家資格で、取得難易度が大きく異なる
- 飲食店・カフェ・キッチンカーなどの開業には食品衛生責任者が必要。食品衛生管理者は特定の製造施設にのみ必要
- 食品衛生管理者は食品衛生責任者を兼ねられるが、逆はできない。ただし飲食店開業のためだけに管理者を取る必要はない
- 養成講習会はeラーニング対応の自治体が増えており、会社員でも無理なく受講可能
- 資格取得だけでなく、保健所への届出・事前相談・実務講習の受講まで含めて「責任者としての業務」と考える
- 将来的に食品製造・加工に事業を広げるなら、事業計画が具体化した段階で管理者資格の要否を保健所に相談する
最初の一歩は、地元の食品衛生協会のWebサイトで養成講習会の日程を確認することです。調理師免許や栄養士の資格を持っている人は講習免除で即日対応可能ですから、保健所への事前相談の予約も併せて入れてしまいましょう。「いつか開業したい」を「今、準備を始める」に変えるのは、こうした小さな一歩の積み重ねです。資格取得という確実にクリアできるタスクから始めることで、開業への道のりが一気に具体的になります。
